控除とは?所得控除と税額控除の違いや種類を解説

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控除とは?所得控除と税額控除の違いや種類を解説

給与明細でよく見かける「控除」という言葉ですが、その仕組みや内容が詳しくわからない方も多いのではないでしょうか。

控除は、所得税などの税金を軽減するために非常に役立つ制度で、これを上手に活用することで大きなメリットが得られます。この記事では、控除の基本的な意味や種類、控除を受けるための具体的な手続き方法について、詳しく解説します。

控除とは

控除とは

「控除」とは、税金の計算において「一定の金額を差し引く」制度です。

控除には主に2種類があります。ひとつは「所得控除」で、収入から一定の金額を引き、その結果、課税される所得を減らすものです。もうひとつは「税額控除」で、計算された税額から直接一定額を差し引く仕組みです。これらを適切に活用することで、税金の負担を減らし、節税に役立ちます。

控除制度の目的は、税の公平性を保ちながら納税者の経済的負担を軽減することです。例えば、配偶者や子どもがいる家庭やひとり親家庭では、それぞれの状況に応じて控除が適用され、課税される所得が軽減されます。控除制度は「公平性の原則」に基づいて、納税者間の税負担を平等にし、生活の安定を図るための重要な手段です。税制の中で控除を理解し、うまく活用することは、より公正な社会を実現するために重要です。
それでは、具体的な控除の種類について詳しく見ていきましょう。

所得控除とは

所得控除とは、個人の経済的な状況を考慮して税金の計算に反映し、所得税の負担を軽減するための制度です。私たちが仕事で得る収入や事業収入、有価証券の配当には税金がかかりますが、税額は単に収入額に基づいて計算されるわけではありません。まず収入から必要経費を引き、その後に所得控除を適用して、課税対象となる所得額が決まります。

所得控除は、家族の構成や障がいの有無、家族の収入などに基づき、控除額が多いほど課税対象の所得が少なくなり、結果として納める税金も減少します。

サラリーマンの場合、年末調整で多くの所得控除が適用されますが、医療費控除、雑損控除、寄附金控除の3つについては、確定申告を行う必要があります。これらの所得控除を適切に活用することで、さらに税金の負担を軽減することが可能です。

税額控除とは

税額控除とは、課税所得に基づいて計算された所得税額から直接一定の金額を引き、税負担をさらに軽減する制度です。

代表的な税額控除には、配当所得に対する控除、外国で支払った税金に対する控除、住宅ローンに関連する控除などがあります。

たとえば、所得が400万円で税率が15%の場合、通常の所得税額は60万円ですが、税額控除が20万円適用されると、60万円から20万円が引かれ、実際の税額は40万円になります。

税額控除は、算出された税額から直接控除を行うため、同じ額の控除であれば所得控除よりも税負担をより多く軽減可能です。所得控除は収入から一定額を引いて課税所得を減らすのに対し、税額控除は計算された税額をそのまま減少させます。税額控除は、二重課税の防止や社会政策を目的としていますが、低所得者は税額控除を受けられない場合もあるため注意が必要です。

所得控除は15種類ある


所得税には15種類の所得控除があり、それぞれに異なる適用条件や控除額が設定されています。控除の一部は年末調整で申告できますが、年末調整では対応できない控除項目については、確定申告が必要です。課税所得を算出する際には、まず収入から必要経費(給与所得者の場合は給与所得控除)を差し引き、その後、所得控除を適用していきます。

所得控除は「人的控除」「物的控除」の2つに分類され、各控除は異なる条件に基づいています。

人的控除の種類

人的控除とは、納税者自身やその配偶者、家族など、主に人に関連した所得控除のことです。

人的控除の種類

概要

控除額


基礎控除

本人の所得が2,500万円以下

合計所得金額に応じて以下の通り

・2,400万円以下は48万円

・2,400万円超2,450万円以下は32万円

・2,450万円超2,500万円以下は16万円

配偶者控除

・所得税法上の控除対象配偶者がいる人

・合計所得が48万円以下の配偶者が対象

・納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下

・配偶者が70歳未満は最大38万円

・配偶者が70歳以上は最大48万円

(納税者の所得に応じて異なる)

配偶者特別控除

・配偶者の年間合計所得金額(年収から給与所得控除額55万円を引いた金額)が48万円超133万円以下

・配偶者の給与収入が103万円超201万円以下

・納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下

1万円~38万円

(本人と配偶者の所得に応じて異なる)

障がい者控除

納税者本人や扶養する配偶者、親族が税法上の障がい者

・障がい者は1人につき27万円

・特別障がい者は1人につき40万円

・同居特別障がい者は1人につき75万円

ひとり親控除

・本人がひとり親である場合

※ひとり親とは、現在婚姻していない人または配偶者の生死が不明な人

・生計を共にする子ども(総所得金額が48万円以下)がいる単身者が対象

・ひとり親の合計所得金額が500万円以下

35万円

扶養控除

・合計所得が48万円以下、16歳以上の扶養親族がいる人

・扶養親族は、納税者と生計を共にし、6親等以内の血族または3親等以内の姻族で、事業専従者ではない

・19歳以上23歳未満は63万円

・70歳以上で同居は58万円

・70歳以上で別居は48万円

・上記以外は38万円

寡婦控除

・夫と離婚または死別後、婚姻していない

・合計所得金額が500万円以下で、扶養親族がいる

27万円

勤労学生控除

・納税者本人のアルバイトなどの勤労による所得

・合計所得金額が75万円以下(収入が130万円以下、総所得控除額55万円を差し引いた額)

・不動産所得など、給与所得以外の所得が10万円以下

27万円

物的控除の種類

物的控除とは、納税者の支出に基づく所得控除であり、社会政策の観点から設けられています。

物的控除の種類

概要

控除額

社会保険料控除

・国民健康保険料、国民年金保険料、厚生年金保険料、介護保険料、後期高齢者保険料などを負担している人

・生計を一つにする配偶者や扶養親族の保険料を納税者が支払った場合、その全額が所得から控除

支払った社会保険料の金額

生命保険料控除

・生命保険、個人年金、介護医療の保険料を支払っている人

・保険金の受取人が契約者本人または本人の配偶者、親族

最高12万円

地震保険料控除

地震保険や特定の損害保険料を支払っている人

最高5万円

小規模企業共済等掛金控除

・小規模企業共済掛金、確定拠出年金(iDeCoなど)、心身障害者扶養共済制度の掛金を支払っている人

支払った金額の全額

医療費控除

・納税者自身、生計を共にする配偶者や親族の医療費が対象

・納税者が支払った医療費が一定額を超える場合に適用

・健康診断や美容整形の費用、栄養ドリンクなどは対象外

・医療費 − 保険金などで補填された金額 − 10万円

 または

・医療費 − 保険金などで補填された金額 − (総所得金額等 × 5%)

雑損控除

・災害、盗難、横領によって住宅や家財などに損失が生じた場合

・損害金額や災害関連支出額から保険金などの補填額を差し引いた額(差引損失額)のうち、一定額が対象

・被害に遭ったのが「通常の生活に必要な財産」であること、損害の原因が震災や火災、盗難、横領などであることが対象条件

A、Bのうち多い方の額

A:差引損失額 − (総所得金額等 × 10%)

B:差引損失額のうち災害関連支出額− 5万円

寄附金控除

・国や地方公共団体、公益社団法人など、公益性の高い特定の団体に寄付をした場合

・特定の個人や私的団体への寄付は対象外

寄付金の額− 2,000円

(寄付金の額は総所得金額等 × 40%が限度)

控除を受けるために必要な手続き

控除を受けるために必要な手続き

控除を受けるためには、「年末調整」または「確定申告」が必要です。会社員であっても、控除の種類によっては確定申告が求められることがあります。給与所得者と個人事業主のそれぞれの手続き方法について理解しておきましょう。

給与所得者の場合

給与所得者は、控除手続きを年末調整で行います。年末調整は、会社が給与から天引きされた税額を実際の税額と調整する手続きです。ただし、医療費控除や寄付金控除など、一部の控除は年末調整で手続きができず、確定申告が必要です。

年末調整で必要な書類例

  • 生命保険料控除証明書:生命保険や介護医療保険に加入している場合
  • 地震保険料控除証明書:地震保険に加入している場合
  • 社会保険料控除証明書:年内に就職する前に社会保険料を自分で払っていた場合
  • 小規模企業共済等掛金払込証明書:iDeCoに加入している場合
  • 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書:住宅ローンの2年目以降の場合

年末調整で手続きをし忘れた場合や、住宅ローン控除の最初の年などは確定申告が必要になります。必要な証明書類を準備し、確定申告を行いましょう。

個人事業主の場合

個人事業主は、控除の手続きをすべて確定申告で行います。確定申告は、1年間の所得を税務署に申告し、納税する手続きで、申告期間は翌年の2月16日から3月15日までです。申告書は税務署に提出するか、e-Taxで申告することも可能です。

また、事業所得や不動産所得があり、青色申告の届出をしている個人事業主は、青色申告特別控除を受けることができます。複式簿記などの記帳方式や書類の準備など条件を満たせば、最高65万円の控除を受けられます。

年末調整がない個人事業主は、控除のための証明書類を大切に保管し、確定申告で手続きを行いましょう。万が一、証明書類を紛失した場合でも、再発行が可能です。また、控除の手続きを忘れた場合でも、5年以内であれば確定申告をすることで還付を受けることができるため安心です。

まとめ

控除を活用することで、節税効果が期待できます。所得控除は課税対象の所得を減らし、場合によっては適用される税率も低くなるため、節税につながります。一方、税額控除は税額から直接差し引かれるため、さらに効果が高いです。

所得控除は所得から、税額控除は計算された税額から、それぞれ一定額を差し引く仕組みです。この違いを理解し、利用できる控除は忘れずに活用しましょう。

執筆年月日:2024年9月
※内容は2024年9月時点の情報です。法律や制度は改正する場合があります。

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